焔の幻影
―フレイム・ミラージュ―

○ロバート・ガルシア 『いかに格好良く死ぬか』


あ、あかんわ、こりゃ。

自分でも、なぜここまで冷静になれたのかわからない。だが、ロバートはあっさり覚悟を決めた。

隣に座る女をかばうように強く抱きしめて、ロバートは笑ってみせた。

「だいじょうぶや」

勇気づけようとするように告げてやる。声などもう轟音にかき消されて聞こえないだろうが、彼はそれが相手に通じたことを信じて疑わなかったし、相手も笑ってロバートの体に腕を回した。

「あなたと一緒にいけるのなら本望だわ、ロバート」

「……嬉しいで。姐さん抱きしめたまんま死ねるなんて」

そっと、軽いくちづけを交わす。

「愛してる……」

どちらがつぶやいた言葉だったか。その問いは、永遠に答えを必要としなかった。

ガバぁ、と上体を起こすも、平穏な朝の空気に異変はない。澄んで、冷えた朝の匂いがしていた。

「……なんや、夢かいなー……。新年からなんやろな、ほんまに……」

盛大にため息をつきながら、はりはりと頭をかく。ロバートは自分の両手に視線を落とした。

抱きしめた相手の温もりは残ってはいなかったが、なんとなくその指を唇にそえる。

「どないな年になる、言うんやろな、今年は……」

初夢からしてこれである。いったいどうなることやら、であった。

気分を切り替え、ベッドから降りて伸びをする。ロバートは自らに宣言した。

「よっしゃ!今年もやるでぇ!」


| 同時刻 リョウ・サカザキ || 同時刻 八神庵 |

後刻 キング