焔の幻影
―フレイム・ミラージュ―
○リョウ・サカザキ 『いかに思いを貫くか』
男は女をかばうように、炎に背を向け体を張った。驚愕に目を見張る女に対し、彼は表情の選択に困ったような顔をした。
「君だけは……守ってみせるから」
「やめて、やめて、リョウ……『私だけ』なんていやよ、そんな事言ってはいや……!」
小さく首を振る女に、リョウはそっと笑った。いたわるように。
「惚れた女一人守れなくて、何が『最強のカラテ』だっていうんだろうね……」
「リョウ……!」
泣きそうな女に、リョウはせめて笑ってやった。武骨な彼にできることなど、それしか残っていなかった。
「君が、好きだよ……」
明るい、新年の日差しに目が覚めた。冴えた光は嫌いではなかった。
布団から起きなおり、軽く首を鳴らす。
「……夢か」
リョウはつぶやき、次の瞬間赤面した。いくら夢の中とはいえ、ずいぶんと大胆なことを口にできたものだった。
「でも……泣いてたな……」
彼女を守って、彼女の為に死ねるのなら本望というものだった。だが、彼女はリョウの採った手段に悲しんだ。あんな顔をさせてまで、自分の本懐をとげることに果たして意味があるのだろうか。
「あんな顔はさせたくないな……」
ふう、とため息をついて、リョウは胸の前でこぶしをかためた。
彼女の笑顔を守りたい。悲しい顔など、させたくない。その為に自分の拳が役立つのなら。闘うことにしか能のない自分に、できることがもしもあるならば。
「君の為に、闘いたいよ」
誰にも聞こえないようにつぶやいて、リョウは景気よく立ち上がった。
「よおっし!行くぜ!」
とりあえず今日のランニングは10本増だ、と考えるリョウ・サカザキであった。
| 同時刻 ロバート・ガルシア || 同時刻 八神庵 |