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2010年4月

2010年4月 8日

待ち伏せ

浪人・三船敏郎,渡世人・石原裕次郎,謎の医者・勝新太郎,役人・中村錦之助という,なんなんですかその顔ぶれはという映画.

出だしからして,浪人が身分の高そうな謎の人物から不可解な仕事を引き受けるところから始まるのでワクワク感満載だ.ちゅうか,不可解すぎて「そんな曖昧な指令でええのん?」と思うほどだ.(笑)

何の因果か,とある茶店に訳のありそうな連中がみんな集まっちまうわけです.

浪人と弥太郎の殴り合いのところ,何か好きで,いや,ありがちな場面なんだけど,弥太郎が「なんなんでぇ」と思ってる目の前で浪人がゲラゲラ笑うところが好きなんですよ.たぶんですね,これの前に見た『素浪人罷り通る』の春夏秋冬が,大きく表情を変える人じゃなかったから嬉しかったんだと思う,うん.でも,弥太郎の出番が突然プツンと途切れた感じで,ファンでもないのに,えー,裕ちゃんにも見せ場作ってよーと思ったのは確か.

浪人さんがこの顔ぶれの中では一番まともでいい人だな.

浪人さん名前呼ばれてなかった(と思う)から名前付いてないのかと思ったら,ちゃんと鎬刀三郎という名前が付いていたことを後で知った.いいなあー,この名前.(私は刀好き)

玄哲はどう考えても酷い奴だろうと思うので,なんで浪人さんがその命を惜しむような言動だったのか興味深い.そりゃあ確かに辛酸をなめたのだろうなというのは分かるけど.

お雪がちゃきちゃきしていて好きだ.お雪がなんとか武器を確保しようとするところとか,浪人がうまいこと村の衆を祭の場へと返すところとか,どうやって捕まっちまった連中の安全を確保するのかとか,緊迫する場面がとてもいい.

兵馬は最初捕縛に四苦八苦している場面から入るのでいい人なのかと思ったら,すんげーやな奴でやな奴で,でも最後にね,ころっと可笑しみとともにちょっぴり感じが良くなる.「おくにに何か言ってやれ」ってとこが,いいんだ.でも,浪人はなんも言ってやんないけどね.いや,言ってやれないんだろうな,性格上.そこがこの人のどうしようもないところであり,好きなところなんだけど.

この映画,もったいないなあと思う.最初に引っ張った謎めいた部分を生かせたらもっと面白かったと思うんだよなあ.時代劇+ミステリーってな感じで.それはお前の趣味だろうと言われれば,そのとおりです

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2010年4月14日

シャーロック・ホームズ

アメリカに行く前に予告編を見て,あー,観てみようかなあーと思っているうちにアメリカに行っちまって,諦めていたら帰ってきてもまだやってた.それで,安心して放置していたら終わりそうになったので,慌てて行った.

予告編観たときに「なんだか全然印象違うなあ」と思ってたんだけど,やっぱり原作とは印象が違っていた.ストーリーもオリジナル.でもですね,これ作った人シャーロキアンだと思う.ところどころ原作ファンがニヤッとする設定がある.ホームズが壁にピストル撃ち込んでイニシャル書いてたり,ワトソンが片足びっこひいていたり,「あの女」だったり,ホームズが拳闘してたり,ワトソンさんの金はホームズが取り上げていたり(正確に言うと,ワトソンの小切手帳はホームズの引き出しに入っていて鍵はホームズが持っている),ワトソンがギャンブル好きだったり(恩給の半額を競馬につぎ込んでる),そりゃあもう色々.

そんでもって,二人ともアクションヒーロー張りに暴れる暴れる(ちゅうか,アクションヒーローです).ワトソンファンとしては,かっこよくて切れる(ときどき「キレる」)ワトソン像が嬉しかった.ホームズのことを「お前なんかもう知らん!」と思ってるだろうに,なぜか手助けしちゃうとこも.字幕ではホームズが「ワトソン君」と呼んでいるけど,きっちり対等なんで,似合わない.厳密に言って誤訳じゃないけど,私としては誤訳と主張したい.

だいたい,ホームズがまたワトソンにキレられて仕方がない奴なんだわ.ちょっくらダメな感じがお子様ぽい.昔あったマイケル・ケイン&ベン・キングズレーコンビ版のホームズみたいに迷探偵な訳じゃないんだけど,言動が.あ,いや,でもいいヤツだよ.医師に化けて様子を見に来るところなんかね.うん,まあ,原作のホームズもたいがいな奴だとは思う.原作で,ホームズがワトソンに出した電報に私の好きな物がある.「都合が良ければ来い.悪くても来い.ホームズ」これ読んだときはっきり言って吹き出した.映画のホームズはこういう面が輪をかけてるんだと思う.んでワトソンは原作よりもこらえ性がない......と言うより常識的に言って映画の方の反応が普通ではなかろうか.

アイリーンもかっこええ.それに輪をかける存在感がモリアーティ教授ではなかろうか(姿はほぼ見せないも同然だけど).

魔術にちゃんと種があって良かった.そうでなかったら鼻白んでいただろうから.

続編是非作ってほしいなあ.

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2010年4月22日

座頭市と用心棒

題字が出てきたときに思い浮かんだ言葉はなぜか『ゴジラVSメカゴジラ』でした.いや,『座頭市』シリーズと『用心棒』は会社が違うからむしろ『ガメラVSゴジラ』なのかもしれない.

三十郎とはやっぱり性格が違うけれど,私はこの映画に出てくる用心棒の旦那もすんごく好きで,借りてきたDVDを思わず三回も観てしまった.ある意味一番正当な三十郎の血統を引いた(?)人物造形だと思う.人を食ってて,悪人ぶりがひどくて,いつも寝てるか酒飲んでるか.ただ,決定的に違うのが一人になったときに見せる仄暗さだ.梅乃さんの店のいつもの席で,看板になってからも一人飲んでいる彼はまるで何か苦い物を飲んでいるかのような顔をしている.その二面性がなんとも言えない.

もとから『座頭市』シリーズがあんまり好きではない(=血しぶき舞い散るイメージが強くて観られない)からかもしれないけれど,市より用心棒の旦那の方が格段に面白い人物造形だと思う.市を嬲ってゲラゲラ笑ってたり,政五郎の真似をして「しぇんしぇー」と言うところなんか最高だ.でもって市は......すまん,なんかこう手を取ってみたらじっとり湿っている感じというか,纏わり付く雰囲気がどうも私は苦手だ.

用心棒の旦那,ずーっと「用心棒」とか「先生」とか呼ばれていて名前出てこないから本名出てこないのかと思ったら,半分以上過ぎたところで突然名前が分かって(背景が分かって)びっくりした.

でもって,血で血を洗う抗争状態になるんですが,出入り状態のところよりも,親子三人がズルズルと地を這うようにして金の在処へと向かうところが音楽の効果もあって凄まじかった.これは用心棒の旦那でなくてもぎょっとするわ.そして,九頭竜が「俺は九頭竜だ!」と叫ぶところね.ここにも金に狂った人間が......って.用心棒の旦那はいろいろ画策したくせに,最後のところで踏みとどまった――というより踏み外せなかったんだな,と.

梅乃さんも私は好きで,「今夜泊まっていいか悪いか」から始まるシーケンスが一番好きだ.梅乃さんと旦那の出会いはどんなんだったろうなあ.このシーケンス,最初に観たときは「政五郎よりむしろ用心棒の旦那の方が主導権握って色々やらせてるみたいなのに,なんで斬らないのかなあ」と思い,「それでも頼りにされている義理ってものがあるのかなあ」と思ってたんだけど,最後まで見終わってから考えると違う側面が見える.この映画を思わず見直したのはそのせいで,立ち位置が見えてから見直すとなるほどなあと思うところがいくつかあったからだ.

えーとまとめると,「骨折り損のくたびれもうけ」って話だと思う.(意味不明だが間違ってもない)

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2010年4月28日

姿三四郎

アメリカにいるときに東京・大阪で「黒澤明-生誕100周年記念 特別上映-」を知り,ちくしょー,また大都市だけかよ,行けないじゃねえかよ,巡回興行してくれー!!(魂の叫び)と思っていたのだが,大阪の上映期間はゴールデンウィークに掛かっている.うーん,行ける,行けんことはない,でも特急列車代とホテル代をかけてまで見に行くか?

迷いに迷って,一時は止めようかとも思い,結局,ロスに行ったときのように出立2日前えいやで手配して,行ってしまいましたとさ.なるべく短い期間に観たい物をできるだけ網羅するために上映スケジュールとにらめっこして,28日と30日に休みを取って,28日は5時起きだった.(大阪まで3時間半弱かかるんだよ)

道に迷ってあせりながらようやっと辿り着いた一発目は『七人の侍』だった.今回は最初から日本語が聞き取れたので,アメリカで分からなかったのは単純に音の問題なのだろうか?と首を捻った.見終わった後,となりのおっちゃんに「これ,昔はもっと長かったんだけどねえ」と言われて「もっと長いの?!長い版観たいよ!」と思いつつ,次の『姿三四郎』を待つ.

調べてみたんだが,たしかに『七人の侍』は短縮版があって,2時間半強ぐらいのと3時間超えのがあるらしい.だが,今回の上映は3時間25分.長い方のはずだ.

入れ替えだったのだが,となりのおっちゃん(さっきと違う人)に「この話,昔はいろんな俳優がやったもんだけどねえ」と話しかけられる.そうなんだよなー.題名だけは聞いたことあるもんなあ.

この映画,最初に注意書きが入るんだけど,検閲で15分切られて,そのフィルムは残っていないんだそうな.もったいない,ほんともったいない.だってね,その部分とおぼしきところが来るたびに字幕だけの説明書きが表示されて,その度に流れていた世界から醒めちゃうんだもん.黒澤さんの映画を観ていて思ったけれど,この人の生きた時代って戦前・戦後を意識せずにいられない.それは,映画にとって不遇の時代でもあり,また,その後に来る映画の全盛の時代でもあり,この大きな盛衰の起伏をこの時代の映画人は駆け抜けたんだなあと思う.

さて,この『姿三四郎』は黒澤監督の監督デビュー作である.

ただ,私は(おそらく)一番重要な蓮の花のシーンでちょっと冷めちゃって,さほど好きじゃないんですわ.黒澤映画に暗喩的なシーンが良く出てくるのはなんとなく気がついてきたんだけど,今回のはちょっとあからさまだったからかなあ.あ,いや,逆に暗喩に見えなくて直裁的だからなのかもしれない.大変美しいシーンなんだけどね.「理解するんじゃない,感じるんだ!」という感じが性急かつ強引に押しつけられたように思えて,感性が置いてけぼりを食ってしまった気がする.うん,まあ,全体的に展開がチャキチャキ性急すぎるよに感じるからだろうなあ.

試合のシーンはどんな特撮?!とチト思った.志村さんが人格者の柔道家やってんの,けっこう似合ってて,試合に負けた後に三四郎と親しくなるのも良かったけれど.

この映画は黒澤映画に珍しく続編があるけど,観ようという気にはならなかったなあ.

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蜘蛛巣城

野心に負けて,人を裏切って裏切って,結局は破滅する話,かな.原作マクベスですよ.マクベスですけど戦国武将の話ですよ.

でも,私,鷲津さん可哀想だったよ.奥方が不吉ばかりを告げる怪鳥に思えてね.物の怪とこの奥方のせいじゃん,と思う.そりゃあ,その意見を退けなかったのは鷲津武時だけど.

可哀想なのは三木さんかな.いい友人に見えたんだけど.何も悪いことしてないじゃん.ああ,でも,この人も鷲津を放置したという不作為の罪があるのか.

変な話だけど,奥さんが血が落ちないと言い出したときにほっとした.だって, 鷲津武時だけが狂って怯えているのってやってられないと思ったから.唆した奥さんがずっとなんの報いも受けないのって割り切れないというのもあるんだけど,それ以上に怖かったんだよね,この奥さんが.まるでこの人も物の怪みたいなんだもん.だから,手を洗い出したときに,武時は絶望しただろうけど,観ている私は「ああ,この人,人間だった,良かった」と思った.

みんな言うだろうけど,最後のじゃんじゃん矢を射かけられているところがやっぱすごい.三船さんがこんな悲鳴を上げながら逃げ惑うだけっていう役は他にないんじゃなかろうか.こんな悲劇なんだけど,全体に霧燻る雰囲気の映像は美しいと思う.

私がこれを面白いと思うのは,「森を動かした」忠臣たちも結局は衰退して蜘蛛巣城が跡だけになったらしいってことなんだ.

後で,この映画が能の様式を取り入れていると知った.そう言われればなるほどと思う.

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白痴

赤間さんが可哀想すぎる.

おまえらなあ,赤間さん強靱だと思って当事者なんに無視するからだ!

いやー,可哀想な人ばっかりですよ.人ばっかりですけど,特に赤間さんが可哀想に思うのは,一番健全そうだったし,少なくとも描かれている様子では一番まともな言動だったからだと思う.妙子とか角田とかはいかにも破滅に向かってますって感じだから,そうかー可哀想だなあーぐらいだったんだけど.

あとね,赤間ってすごくいい人なんだよね.そりゃ乱暴でやくざ者なんかもしれないし,100万持ってきたときは必死何は分かるけど分かってねえなあって気がする.ただ,冒頭でなんでか角田の面倒みちまうところからして悪い奴じゃない.いや,一番心打たれたのは,母親の部屋に行ったときなんだよ.もう呆けちゃってて,「もう何にも分かりゃしねえんだ」と言うんだけどね,それでも「お茶入れてくれよ」と言いながらニコニコと眺めてるし,お供え下ろしてきて「喜ぶから食ってくれ」と自分も一緒に食べてる.翻って我が身を省みるに,私は何をやってるんだろうと泣きそうだった.

ヒロイン(?)那須妙子を演じているのが原節子さんなんですがね,この人本気で綺麗だねえ.豪奢な毛皮に身を包み,愁いを含みつつ夢を見つつ厳しく冷めたような視線を見せる目元.登場時の周りを小馬鹿にしたかのような態度の後に,角田の言動に接して,「許してくださる?」と香山家の人たちに言うところが一番好きだな.

那須妙子というんで,どうせ原作(あ,ドストエフスキーの『白痴』です,原作)でナスターシャとでも言うんだろうと思っていたら,本気でナスターシャだったので笑った.

そうそう,那須妙子がさんざん角田への感謝と尊敬を述べた後に,赤間を選ぶ場面があるんだけど,「ロシア人なら,女は好きでない方の男と結婚して3人で不幸を嘆く」というジョークを思い出して,ツッコミを入れかけた.(映画館で声出してツッコむのはやめよう)

あと,この映画を観て突然千秋実さんがすごくでっかい人だということに気づいた.

この映画,観た物でも十分長いんだけど,本当はもっと長くて前後編だったのだそうだ.長い版観たかったよ.いちいち切ったと思われるところに字だけの黒い画面が出てきてがっかりだった.それに,長かったけど,さほど退屈ではなかったからさ.破局に向かうのが目に見えていて重苦しいけど.この映画のおもしろさというのはアクション的な物じゃないから,人は選ぶと思うけど.メロドラマなんだよね.TVの6回連続物的な感じ.

もし完全版の映像を観たとしたら上述した赤間への同情が違っていたかもしれないなあと思うのも観てみたい理由である.原作人物の獰猛性・暴力性が映像ではさほどには語られていなかったから.

本当に角田と赤間の関係は不可思議だ.第一義的には那須妙子を巡る三角関係なのかもしれないが,角田の性格からか赤間の面倒見の良さからか完全には敵対しない2人の人間関係が面白い.......ちゅうか,赤間角田間の関係描写(ラスト近く)は危ないよ,マジで.

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2010年4月29日

どん底

いやー、捨吉かわいそうだろう、捨吉。って,『白痴』の時も似たような書き出しだったな.もっとも,『白痴』の方が悲惨だが.

私、なんで捨吉がこんなにかわいそうに思うのか考えてたんだけど、考えてみるとですね、姉は嫉妬して折檻し、坊さんは連れて逃げろと諭し、周りのみんなも「捨吉を探してこい!」って言ってて、全員が全員捨吉はお加代に惚れていると知っている。なのに、肝心の本人だけ信じてないんだもん、そりゃ捨吉でなくたって、「お前、本気でそんなことを......!」って思うわー。

『蜘蛛巣城』同様,山田五十鈴さんが出てくるけど,この人怖いよう.本当に怖いよう.私のベルさんのイメージって必殺シリーズで固まっちゃってたけど,一連の黒澤映画で怖くなってしまった.

ゴーリキィの戯曲『どん底』の映画化だそうで,最初は長屋(と言うにはもっとみすぼらしい)からカメラ動かないから舞台劇みたいだった.あ,舞台劇なら視点が動かないか.うん,場面を動かさずにカメラの視点が切り替わって変わった印象だったな.基本的に長屋の中と大家の家とその前の小さなスペースだけで話が完結している.

続けてみてやっと分かってきたけど,この頃の映画って,監督同じだと出てくる俳優さんも同じなんだね.だから,「劇団黒澤組」って感じがして,この映画はそういう面が一番出ているように思う.

そうそう,途中に2回ほど出てくるラップ(?)がすんごく格好いい.

トントンちきめ とんちきめ
コンコンちきしょう こんちくしょう
地獄の沙汰も金次第
仏の慈悲も金次第

という歌詞なんだが,歌詞から受ける印象よりずっと格好いいよ.その辺の茶碗とかで拍子とってるのになんでそんなに格好いいのかなあ.

いちおう,出演者のトップには三船さんが出てるけど,主人公が誰とも言えない感じだった.あえて選ぶとしたら巡礼の嘉平か遊び人の喜三郎.私としては最後を締めた喜三郎の方を推す.そうやって,同情の感情薄く這い上がることなぞ考えもしないくせに嘆きもせずに生きていく.

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